心臓を貫かれて〈上〉 (文春文庫) 

心臓を貫かれて〈上〉 (文春文庫)



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心臓を貫かれて〈上〉 (文春文庫)

心臓を貫かれて〈上〉 (文春文庫)

文藝春秋
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暗く深い井戸の底

少し前に売れた本に「Itと呼ばれた子」という本がある。
実母から壮絶な虐待を受けた被害者の一人称で綴った本だが、あれと同じこれでもかというえぐい暴力や虐待の露悪を期待して読んだ読者は裏切られると思う。
この本で著者の兄弟たちが受けた虐待は、いってしまえばありふれている。
単純な殴打や打擲やベルトでの鞭打ち(勿論それ以外の陰湿なものもあるが)……確かに酷いが、それほど異質かつ異常なわけでもない。

だが、怖い。
恐ろしい。

たとえば井戸を連想してほしい。
残虐を極める虐待の細部をリアルにグロテスクに詳述した本が無数の虫がうぞうぞ蠢き回る井戸を覗き込む行為だとしたら、この本は深く暗く底知れない井戸を覗きこむのに似ている。
闇を這う虫は肉眼では捉えきれず、底で蠢く気配だけが伝わってくる。
ただ、深く得体の知れない闇だけが広がっている。

その闇は底知れず、どこまで続いてるかわからない。
どこまで遡れば終わるのか、憎悪が取り結ぶ血の連鎖の終着点はどこか、まるっきりわからない。

だからこそ、怖い。
子供、両親、祖父母。
一体この井戸はどこまで続いてるのだろうか。
そう考えさせてやまないノンフィクションだ。 まさみ


キリスト教国の闇

アメリカ社会の闇がリアルに描かれています。しかも、それは特別な人々の問題ではなく、ごく平均的な一市民の家庭に潜む闇といえるかもしれないのです。凶悪な犯罪がどのような不幸の連鎖の果てにひき起こされるのか?そしてそれは、避けることができたのか?凶悪事件の度に問われ、結論の出ることのない問い。

前半では特に、主人公の母親の実家がユタ州の厳格なモルモン教徒で、モルモン教の血塗られた歴史や、厳格な家庭に育つ歪められた欲望についての記述がとても興味深いものでした。実は、私自身が学生時代にモルモン教徒の家にホームステイした経験があり、日曜ごとのモルモン集会にもしっかり連れて行かれました。とても善い人たちでしたが、やはり新興宗教にありがちな排他的な厳格さは、日本人にとってはかなり違和感のあるものでした。

キリスト教では、神が絶対的な光である反面、救いようもないほど暗い闇も存在するということなのでしょうか。
神よりも、幽霊よりも、恐ろしいのは人間の恐怖感かもしれません。
アメリカに行くのが恐くなる物語です。 yuriko


みんなはこの本を読んで、いったいどんな感想を持つのだろう?

本書を読んで強く感じたのは、人間の暗部の底知れぬ怖さである。本書が、あまりにも暗い地獄の底から叫び続けているのは、家族にとりついた悪霊の執拗な追跡なのだ。
ゲイリー一家がたどる歴史は暴力の歴史であり、影の歴史であり、悲しみの歴史だった。なぜ、この家族がこんな歴史をたどったのか。毎日繰り返される両親のケンカ、父親の絶対君主的空間で繰り広げられる理不尽な折檻。そんな環境の中で育つ子は、歪んだ人間として成長してゆく。
まるで、目の前で見ているかのように繰り広げられるこの家族の血の歴史を、どうにもできない自分が歯がゆく思われてくるほどだった。砂の城が崩壊するがごとくに崩れてゆくこの家族に何もしてあげられないこのやりきれなさよ。
かくしてゲイリーは自ら叫んだ死へのぞみ、銃殺刑となる。兄のフランクは、自分の出生の秘密も知らず、ただ一人母からの愛を受けられず、しかし最後まで自分の人生を犠牲にしてまで母の面倒をみ、零落れた生活を強いられる。末弟のゲイレンは、ゲイリーに近づこうとして歪んだ人生を踏襲し、若い命を毟り取られてしまう。両親は、自らの血の歴史に呑み込まれいつも何かに怯え、あまりにも不幸な人生をとじることになる。
唯一マイケルだけがこの恐怖の世界から抜け出し、真っ当な人生を送っているというわけだ。だがマイケルも家族に残されたトラウマによって、かなり辛い日々を送っている。どうだろう?このとてつもなく重たい本から何が得られるだろう?ぼくは、この本を読んで家族愛に目覚めた。子に対する愛情の大切さを知った。この本を読んだ他の人たちは、いったいどういう思いを抱いたのだろう? ベック


村上春樹さんの訳が・・

英語版も読みましたが、日本版は村上春樹さんの訳がとても美しいと感じた。特に物語後半にでてくるファッツドミノの歌詞の訳などは、一度読むと忘れられないような美しい訳だった。物語の内容は、現在他にも似たような壮絶な体験を綴ったノンフィクションがたくさんでているので、さほどショッキングな内容ではなかったが、幽霊話や不吉な話と結び付けているところが、ほかのノンフィクションにはない恐ろしさを感じた。ひとつの家族が一人の人間によって翻弄され、崩壊していくどうしようもない感じがすると同時に、他にもっと良い方法があったはずなのに、どうしてこの家族は破滅への道を選んでしまったのか憤りを感じる話でもあった。物語に引き込まれてしまうので長さはさほど気にならなかった。







marimo


おびえた

 村上春樹調がばりばりなので、苦手な人はこの分量がダルくなるかもしれない。
 読んでも別に、勉強になるとか生き方が見つかるとか、そういう類の本ではないと思う。ただ悲劇として楽しむだけになってしまうのかもしれない。
 そしてこれは、一大悲劇。
 どうしても何かから、それは家族であったかもしれないし、遺伝子であったかもしれないが、それから脱出できなかった者たちが送る痛々しい人生が描かれている。村上春樹調で言うと、とびっきり痛々しい人生だ。人並みはずれた才能や魅力を持つ者たちが、どうしてここまで自己破壊を行ってしまうのか、それを著者は明らかにしようとして、これを書いた。
 ミステリアスに、そしてときにはオカルティックに語られているので、飽きない。著者が本当に正直に書いているのも分かるし、意味の無い誇張や隠蔽も感じられない。内容とうらはらに、平和そうな写真の中の家族の姿も最悪だ。 さらぴん


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